オンライン上でのロールシャッハ・テストの取り扱いに関する見解
ロールシャッハ・テストの図版、解釈仮説などの不用意なネット上への公開は適切な心理支援の妨げにつながるおそれがあり、守秘に関する最大限の配慮が必要です。一方、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、臨床業務でのロールシャッハ・テストの実施やオンラインによる授業や研修会等におけるロールシャッハ・テストの図版の取り扱いに困難を覚えることが増えていると思われます。そのような状況を鑑み、本学会では国際ロールシャッハ及び投映法学会の考えも踏まえ、オンライン上でのロールシャッハ・テストの取り扱いに関して検討を行いました。以下に、本学会の見解を示します。
1.ロールシャッハ・テストをオンラインでは実施しない。
2.大学院等での講義及び心理臨床の専門家を含む研修会等(以下、講義・研修会等)においては、ロールシャッハ・テストの図版やロケーションチャート(領域図)を、オンラインで提示しない。ロールシャッハ・テストの図版を相手に提示する必要があるときは、模擬図版を使用するなどの配慮をする。また、領域を示す場合は、ロケーションチャート(領域図)を提示するのではなく、領域番号や記号を用いるなどの工夫をする。
3,動画や録音を含む教材などにおいても前項と同様とする。
4.オンラインでの講義・研修会等において事例を扱う場合、プライバシー保護に配慮し、個人が特定されないように留意するなど、臨床事例の守秘については特別に配慮することはもちろん、受講者側の視聴環境などにも十分な注意を払う。受講者には、録音、録画、撮影、画面のキャプチャなどは禁じ、受講時に音声や画像が外に漏れないような配慮を求める。
5.臨床事例を含む事例研究をオンラインで学会発表する場合、対象者にはオンラインで発表することについても十分な説明をした上で、同意を得る。
2021年3月6日
包括システムによる日本ロールシャッハ学会倫理委員会
図版の保守に関するJRSCの対応について
JRSCの倫理綱領第7条には,「心理検査に関する不適切な出版物や情報公開によって,検査技法やその結果が誤用・悪用されることがないよう注意しなければならない」と定められています。これは,これから検査を受ける方が前もって図版を目にすることにより,あるいは図版やロールシャッハ・テストについて何らかの先入観を持つことによって,検査結果に大きな影響が生じてしまわないようにするためです。
ところが,昨今,さまざまなメディアにロールシャッハ・テストの図版が公開される事例が増えてきています。中には,反応例や誤った解説が加えられているケースもあります。JRSCでは,その都度,日本ロールシャッハ学会及び日本心理臨床学会,並びに日本臨床心理士会と連携して関係諸団体に対応してきました。そのような要望を伝えたくてもアクセス自体が困難なこともありますが,日本においてはおしなべて誠実に対処してくださる団体が多いようです。引き続き心理支援における検査器具の位置づけやその重要性についてお伝えし,理解と配慮を得られるよう努めていこうと考えています。
一方,検査を受ける際の心的構えが結果に影響することは多くの研究が示唆するところですが,図版を前もって見ていること自体がどのような影響を及ぼすのか,図版の暴露は心的構えの形成にどのように関連しているのかなど,より詳細なプロセスを明確にしていくことも,図版公開への対策として必要なことです。こうした研究の活性化を強く期待しています。
ロールシャッハ・テストが心理臨床の有益なツールとして,国民の役に立ち続けられるよう,何ができるのか,何をすべきなのか,会員の皆様とともに考え,実行していきたいと思います。
2020年6月8日
会長 野田昌道
包括システムによる日本ロールシャッハ学会 倫理規程
(目的)
第1条 この規程は、包括システムによる日本ロールシャッハ学会(以下「本会」という。)の会員が行うロールシャッハ法及びその他の投映法を中心とした心理検査にかかわる行為が適切に行われることを目的とする。
第2条 本会は、会員が専門的業務に従事し、研究活動をするに当って遵守すべき事項に関する倫理綱領を、別に定める。
第3条 本会に、前2条に係る事項を審議するために倫理委員会(以下「委員会」という。)を設ける。
(委員会の業務)
第4条 委員会は、第1条の目的及び倫理綱領の目的を達成するため、本会の会長(以下「会長」という。)の指示の下に各号の業務を行う。
一 本規程及び倫理綱領の改廃に関する審議
二 会員の倫理向上に向けての本学会常任理事会又は理事会への提言
三 会長からの諮問に基づく倫理綱領違反に関する調査と裁定案の答申
四 その他、委員会が必要と認める業務
(委員会の構成)
第5条 委員会は、会長が指名し、常任理事会又は理事会で承認された会員若干名をもって構成する。
2 委員長は、理事の中から会長が指名する。
3 委員の任期は、理事の任期と同じとする。ただし、任期終了時に調査・審議中の案件がある場合は、委員の任務を継続するものとする。
4 委員会は、必要に応じて会長が指名した会員を委員として加えることができる。また、法的な知識に基づく助言等が必要な場合には弁護士等に意見を求めることができる。
5 一時的に委員に加わった者の任期は、任務にあたる業務が終了するまでとする。
(倫理綱領違反が申告された場合の委員会の運営)
第6条 会員の倫理綱領違反に対する申し立てや通告があった場合には、委員長は速やかに委員会を開催し、審議すべき案件かどうかを会長に報告する。
2 委員長に事故があるとき、又は欠けたときは、委員のうちから会長に指名された者が委員長の職務を代理し、また委員長の職務を行う。
3 委員会は会長から審議を付託された案件について調査を開始する。
4 案件の当事者になった場合、委員はその職を離れなければならない。
(委員会の報告)
第7条 委員長は、会長から審議を付託された日から起算して、3ケ月以内に審議の結果を会長に報告しなければならない。ただし、資料収集、事情聴取等の調査を要するものはこの限りではない。
2 第4条第三号に定める諮問については、委員長は、会長への報告に際し、その倫理綱領違反をした者に対してとるべき処分としての裁定案を答申するものとする。
(裁定)
第8条 裁定は、本会常任理事会又は理事会において常任理事又は理事の3分の2以上の議決によって承認を得た後、会長がこれを行う。
2 裁定結果は当該会員に対し会長名で文書によって通知される。
(異議申し立て)
第9条 裁定について通知を受けた当該会員は、その内容に異議があれば、1か月以内に会長宛に文書によって異議申し立てを行うことができる。
(裁定の公表)
第10条 裁定結果は、適切と思われる形で機関誌及び学会のホームページで公表することができる。
(守秘義務)
第11条 委員をはじめ、一時的に加わった委員及び審議と裁定に関わった者は、各々の任務が終了した後も第10条で公表する情報以外の情報をほかに漏らしてはならない。
(改廃手続き)
第12条 この規程の改廃は、委員会の審議を経て、本会常任理事会又は理事会において常任理事又は理事の3分の2以上の議決によって承認を得た後、会長がこれを行う。
附則 この倫理規程は平成30年6月24日より施行する。
包括システムによる日本ロールシャッハ学会 倫理綱領
包括システムによる日本ロールシャッハ学会(以下「本会」という。)は、本会倫理規程第2条の規定に基づき、この倫理綱領を定める。
前文
本会会員は、臨床活動及び研究によって得られたロールシャッハ法及びその他の投映法を中心とした心理検査の知識と技能を人々の心の健康増進のために用いるよう努めるものである。そのため会員は、常に自らの専門的な心理検査の実践業務及びその研究が人々の生活に重大な影響を与えるものであるという社会的責任を自覚し、以下の綱領を遵守する義務を負うものである。
(責任)
第1条 会員は、自らの専門的な心理検査の実践業務や研究が及ぼす結果に責任をもたなければならない。
2 会員は、その業務及び研究の遂行に際しては、常に対象者の利益及び人権を優先させなければならない。
(技能の向上と自覚)
第2条 会員は、訓練と経験によって的確と認められた技能によって、対象者に心理検査を行うものである。
2 会員は、前項の心理検査を行うため、常にその知識と技術を研鑽し、高度の技術水準を保つように努めるとともに、自らの能力と技術の限界についても十分にわきまえておかなければならない。
3 会員は、心理検査の実践業務及び研究においては、学会水準で是認され得ない技法または不適切とみなされる技法を用いてはならない。
(臨床的使用)
第3条 会員は、対象者の人権に留意し、心理検査の結果及び所見が誤用され、若しくは悪用されないよう常に配慮しなければならない。
第4条 会員は、臨床業務中に心理検査を用いる場合には、その目的と利用の仕方について、対象者または関係者に十分に説明を行った上で、同意を得ることを原則とする。その際、同意した内容をいつでも撤回できることを保証しなければならない。
2 会員は、検査技法が対象者の心身に著しく負担をかけるおそれがある場合、又はその検査所見情報が対象者の援助に直接結びつかないとみなされる場合には、その実施は差し控えなければならない。
3 会員は、依頼者又は対象者自身から検査結果に関する情報を求められた場合には、情報を伝達することが対象者の福祉に役立つよう、受取り手にふさわしい用語と形式で答えなければならない。
(研究活動)
第5条 会員は、心理検査を用いた研究計画を立てるときは、研究の意義を検討すると同時に、研究に協力し参加する対象者が心身の苦痛や不利益をこうむることのないよう十分に配慮しなければならない。
2 会員は、その研究が臨床業務の遂行に支障を来さないように留意し、対象者又は関係者に事前に可能な限りその目的及び内容を告げ、研究への協力参加の同意を得なければならない。この場合において、対象者は、参加又は不参加を選択することができる自由及び研究進行中での辞退が可能であることを保証しておかなければならない。
3 会員は、その研究の立案・計画・実施・報告などの過程において、研究データの記録保持や厳正な取り扱いを徹底し、捏造・改ざん・盗用・二重投稿などの不正行為を行ってはならず、またそのような行為に加担してはならない。
4 会員は、その研究計画について可能な限り所属先又は勤務先の倫理審査を受け承認されなければならない。
(秘密保持)
第6条 会員は、臨床業務上知り得た事項に関しては、専門家としての判断の下に必要と認めた以外の内容を他に漏らしてはならない。
2 会員は、事例又は研究の公表に際して特定個人の資料を用いる場合には、対象者の秘密を保持する責任をもたなくてはならない。学会を退会した後も、同様とする。
(公開と説明)
第7条 会員は、一般の人々に対して心理検査に関する知識又は専門的意見を公開する場合には、公開内容について過度な誇張や偏った一般化がないようにし、公正を期さなければならない。
2 会員は、前項の規定による公開が新聞、ラジオ、テレビジョン、各種ソーシャルネットワーキングサービスやウェブサイト、一般図書等の場合には、その社会的影響について責任がもてるものであることを条件としなければならない。
3 会員は、心理検査技法の開発、出版又は利用に際し、とくにロールシャッハ図版などの検査用具や説明書等を学術上必要な範囲を超えてみだりに開示・頒布・複写することを慎まなければならない。また、心理検査に関する不適切な出版物や情報公開によって、検査技法やその結果が誤用・悪用されることがないよう注意しなければならない。
4 会員は、心理学の一般的知識を教授するために使われる入門レベルの教科書若しくは解説書又は一般図書において、心理検査に用いられる刺激素材の複製又はその一部をそのまま提示し、又は回答・反応に関する示唆に類するものを公開して、現存する心理検査技法の価値を損じないよう注意しなければならない。
5 会員は、心理検査の授業や研修の機会、会員自身の研鑽の目的においても、前項と同様に刺激素材の複製や提示の仕方に留意し、著作権保護に配慮しなければならない。
(記録の保管)
第8条 会員は、対象者の記録を一定期間保存しておかなければならない。その保管期間、方法については、各会員の所属先又は勤務先の定めるところに従うものとする。
2 個人開業など個人での管理を行う記録の保管は、10年を原則とする。
(倫理の遵守)
第9条 会員は、この倫理綱領を十分に理解し、これに違反することがないように常に注意しなければならない。
2 会員は、倫理綱領違反の申告が発生したときは、倫理委員会の調査を受ける場合がある。
3 会員は、倫理委員会の調査や意見聴取に可能な限り協力しなければならない。
附則 この倫理綱領は平成30年6月24日より施行する。