第25回東京大会印象記(認定資格基礎研修)
青木 翔 (大阪大学大学院 連合小児発達学研究科)
今回,私は2019年7月6日(土)・7日(日)に開催されたJRSC第25回東京大会へ参加する機会を得た。私自身,臨床業務でロールシャッハ・テストを実施しているが,自身のコーディングに今一つ自信を持てないでいた。また,周囲にロールシャッハ・テストを用いる方がおられず,同テストを用いた臨床の概観を掴めずにいることもあって,私にとって良い学びの機会となるように感じられたのが参加の動機である。
会場は跡見学園女子大学で,最寄り駅の茗荷谷駅より徒歩2分である。方向音痴な私にとっても駅からの道は迷う余地がないほどわかりやすかった。
6日は分厚く灰色の曇が空を覆う中,認定資格基礎研修(CPCS)に参加した。研修はコーディングの基礎の確認を目的に,反応領域など項目毎に講師の先生方によるレクチャーと質疑応答がなされた。レクチャーでは,講師の方がスライドを用いてコーディングの基礎を中心にお話しされ,加えて実際にコーディングする際に間違いやすい箇所を留意点として説明され,受講者のニーズに対応する細やかな配慮が感じられるものとなっていた。また,質疑応答時に寄せられた受講者からの質問は,それ自身が他の受講者のコーディングの学習となることは言うまでもなく,質問を通して各々の受講者が日々ロールシャッハ・テストに真摯に向き合われていることが感じられた。周囲に同テストを用いる方が見当たらない私はその真摯な姿勢に大いに勇気づけられ,今後も研鑽を積んでいこうとポジティブな気持ちになることができた。本研修会は,あらゆる受講者に何らかの学びの糸口を提供したことは間違いないが,半日でコーディングの全ての要素を総復習するという濃密な内容のために,実際に自身で何例かコーディングした経験のある方にとっては,その実りもさらに豊かなものとなるように思われた。
7日は生憎の雨。午前の事例発表では,発達障害を有するとされる方の主訴と発達特性,二次障害をそれぞれロールシャッハ・テストのデータと対応させて記述し,支援へと結びつけた事例が発表された。このような枠組みで見立てを試みることは,他の理論や観点で試みるのと同様に,整理された理解を我々に提供し,ひいてはそれぞれの困難さに対してどのような順序や方略で支援に繋げていけば良いかといった支援方針を示唆するものである。このような発表を拝聴し,自身の臨床を振り返る中で,多様性・個別性を描出することに秀でるロールシャッハ・テストは,表現型が異なり,またこれまでの経験も千差万別な,発達的な特性を有する個人を理解する上においても十分に有益なものであると感じられた。
午後のシンポジウムでは,ロールシャッハ・テストから得られた理解をどのように伝えるかということに主眼の置かれた内容で,様々な職域における,様々な対象者に向けた情報共有の取り組みが紹介された。登壇者の先生方の実践を拝聴し考えたのは,得られた理解を伝えるプロセス,すなわち伝えられる対象者の属性やニーズを考慮し,汲み取り,その対象者に適した形で理解を共有していく中で,対象者がどのように感じ,受け取ったのかを丁寧に確認していく動的な作業そのものにセラピューティックな側面が含まれ,さらなる展開への動きを生み出しているということであった。伝えることの奥深さと,心理的アセスメントにおける伝えることの果たす役割を再認識するシンポジウムとなった。
今回は,ロールシャッハ・テストやそれを用いた臨床について,自身の臨床を振り返りながら思いを巡らせた2日間となった。また今後の臨床活動に,大会で得られた多くの学びを少しでも還元できればとの思いでいっぱいである。最後に,大会運営にご尽力いただきました関係者の皆様,大変お世話になり心より御礼申し上げます。ありがとうございました。
第25回東京大会印象記(ワークショップA)
M.H.
今回、仕事がようやく落ち着いてきたということで、初めてロールシャッハ学会に参加しました。と言いましても、遠方から足を運んだ都合上、本大会には参加できず、土曜日のワークショップAにのみ参加させていただきました。今回はそのワークショップAについて、印象記を書かせていただきます。
私は、ワークショップに参加するのも初めてでしたし、あまり現場でロールシャッハ・テスト(以下、ロテスト)を実践できていないので(頑張りたいところなのですが…涙)、恥ずかしながらロテストに触れるのが久しぶりでして、参加前は、講義についていけるだろうかと不安でいっぱいでした。ですが、いざ行ってみると、ワークショップはいきなり事例に当たるというわけではなく、『ロールシャッハテストの基礎的理解と援助方針』というタイトルの講義からスタートしました。この講義が初めにあったおかげで、「ロテストってこんなんだったなあ…。」と、少しずつ感覚が戻ってきて、自然とロテストの世界に入り込むことが出来ました。私にとっては非常にありがたかったです。
講義では、初級者が悩むコーディングや解釈についてお話があり、「初級者は、解釈がテキストのつぎはぎになってしまうと悩んでいることが多い」という話に、「そうそう!」と思いながら耳を傾けていました。また、講義の中で私が特に印象深く残っているのは、「望ましい変化とは、データを平均値に近づけることなのだろうか?」という市川先生からの問いかけでした。このクライエントはハイラムダだとか、平凡反応が少ないだとか、平均値からのずれが認められると、そこが彼の弱点だからなんとかせねば!と思ってしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。この点について市川先生は、「ロテストの結果はクライエントの現在の適応努力であると理解することが援助につながる。」とおっしゃられました。これは私にとって目からウロコと言いますか、分かっていたはずなのに忘れていたなと、ドキッとさせられました。私は職業柄、当事者の課題をどうすれば改善させられるだろうかと考えることが多いのですが、まずは、この課題は彼にとって必要なものかもしれないと理解することが大切だと気づかされました。この市川先生の問いかけは、ロテストに限らず、日頃の臨床現場においても重要なことだなと感じました。
その後は、2事例を題材に、ロテストの解釈を行っていきました。正直なところ、講義のスピードについて行くのに必死だったのですが、テキストに書かれている解釈のステップを読んだだけでは分かりにくい、例えば継起分析や反応内容を見る(味わう?)ことといった点について、どこに着目すればよいのかといったことを、リアルに体感することができて有意義でした。また、ロテストをただ単に解釈していくだけではなく、面接でのクライエントの様子などもお話ししていただいたことで、解釈が理解しやすくなるとともに、先ほど述べた市川先生の「望ましい変化とは、データを平均値に近づけることなのだろうか?」という問いかけの答えを、自分の中で深めることができたように思います。
一日という短い時間でしたが、内容はとても濃いもので、勇気を出してワークショップに参加して本当に良かったです。これを機に、もっとロテストの勉強をして研鑽していきたいと思います。ありがとうございました。
ワークショップB体験記
北九州医療刑務所 海原美香
大会初日,私は佐藤豊先生のワークショップBに参加しました。日々の業務で行き詰っていた私にとって,今回のテーマ「アセスメントを活かす~クライエントの変化を促す」は,大変魅力的なものでした。私の臨床活動の場は,矯正領域です。アセスメントのためにロールシャッハ等のテストをする際には,十分に結果を読み取り,本人像を正しく理解できているか,いつも不安を感じています。また,受身的な姿勢の被検査者が多い中,テストやフィードバックが本人の問題に向き合う一歩になれば良いと思うのですが,結果を共有しても,次にうまくつなげられないと感じることも多々あります。こうした私自身の課題に向き合う目的を持って,ワークショップに臨ませてもらいました。
佐藤先生は,Therapeutic Assessmentの視点から,クライエントの変化を促すアセスメントに主眼を置かれていました。ここでは,テストの結果を共有する「協働的作業」の過程により,クライエントの自己理解を深めること,さらに,クライエント自身が気付いていない問題を扱い,変化を引き起こさせることに着目しています。本ワークショップでは,抑うつを主訴とする成人男性の事例を通し,その過程を具体的に学びました。事例のアセスメント・クエスチョン(以下AQ)では,「どうして自分はこのような状態になってしまったのか。」と,クライエントの戸惑いが訴えられています。テスト結果の解釈でプロトコルをじっくりと味わっていくと,本人が抱える傷つき,苦しさ,混乱がリアルに伝わってくるようでした。徐々にクライエント像,表に出てくる問題の根幹が浮かび上がってきて,ロールシャッハテストの奥深さ,面白さを改めて感じました。
解釈後は,小グループで討議する時間でした。討議のテーマは,フィードバック時のクライエントへの拡大質問についてです。AQを踏まえ,クライエントに自分の問題を意識化させるために,どの結果をどのような切り口で伝えていくかを話し合いました。本人のしんどさを共感することや,本人の問題に直接的に焦点付けず一般論として伝えることなどの様々な意見があり,参加者同士の視点や手法の違いを知ることができました。
最後に,佐藤先生を検査者役として,フィードバックのデモンストレーションがありました。検査者は,クライエントと反応内容を一緒に検討しつつ,拡大質問を展開していきます。テスト結果で,何が分かって,何が分からないのかを説明すると,クライエントも自身の解釈を語ってくれるということを,肌で感じることができました。また,佐藤先生がプロトコルの内容を検討する中で疑問だった点が,クライエントの言葉で解明したことも挙げられました。まさに「協働的作業」のアセスメントであると実感します。佐藤先生の,クライエントの変化を見守る温かさに加え,解釈時に「なぜ」と感じた疑問を突き詰め,向き合うエネルギーの強さ,熱さを感じました。「ロールシャッハテストの過程そのものが,心理療法の過程。」,「テスト過程を通じて,クライエントが検査者に理解してもらえたと感じる体験が重要。」という言葉が,特に印象に残りました。
本ワークショップを通じ,ロールシャッハテストを含めたアセスメントの魅力に改めて触れることができました。クライエント自身の変化する力を信じて働き掛け,少しでも変化を促せたときこそ,臨床家としてやりがいを持てると思います。自分の業務で少しでも活かせるよう,より一層知識や技能を習得しなければならないと刺激を受けた時間でした。本人へのフィードバックだけでなく,本人が持つ力,安定できる状況などを他職種の専門家にどのように伝え,理解してもらうかも視野に入れながら,今後も自分の学びを深めていきたいです。
貴重な勉強の機会を得させていただき,ありがとうございました。