概要:
高度な情報社会に生きるわれわれは、常に多くの情報にさらされている。そうした情報の中には、意識することができる情報もあるが、その多くは意識することができない、閾下情報(サブリミナル情報)であると考えられる。そうした意識することができないサブリミナル情報が、われわれの行動に少からぬ影響を与えていることは、古くから、心理学や社会学の分野で知られてきたが、その特性やメカニズムが科学的に研究、解明されることはほとんどなかった。本講演では、近年の神経科学、とりわけ、精神物理学的手法(psychophysics) やfunctional magnetic resonance imaging (fMRI:機能的核磁気共鳴画像装置)を用いた研究などを紹介しながら、そうしたサブリミナル情報がどのようにわれわれの脳の中で処理され、われわれの知覚や行動にどのような影響を与えているかを科学的に検討することとしたい。また、人の心や意識に対する科学的アプローチ、科学的研究とは何かを考え、そうした科学的研究の結果や成果を、どのように臨床現場での心理測定やカウンセリングなどに活用できるのか、その可能性も探ることとしたい。
自己紹介:
認知心理学者。NHK放送技術研究所ポスドク研究員。精神物理学的な手法(psychophysics)を用いて、人間の認知過程の研究を行っている。結果が予想できる研究はやらない、がモットー。