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2009.10.7
訃報 当学会初代会長霜山徳爾先生

訃報 当学会初代会長霜山徳爾先生

JRSC会長 中村 紀子

 2009年10月7日、当学会の初代会長の霜山徳爾先生が亡くなられました。90歳の大往生でいらっしゃいました。
ご存知のように、霜山先生は当学会の設立に深くかかわって下さいました。1993年、30代のまだ若かった当時の設立メンバーが先生のご自宅にお伺いして、日本初のロールシャッハ学会を設立したい旨をお伝えし、それに当たっては先生に会長になっていただいて、想定されるさまざまな困難を乗り越えるために我々に英知を授けていただけないかとお伺いいたしました。恐る恐るお返事をお待ちしていたのを記憶しております。若すぎる当時のメンバーでは、いかに意欲があっても学会としては全く恰好がつかないのは明明白白でした。ゆったりとした笑みを含んだ霜山先生の口から「それはいいねぇ」という承諾と励ましのお言葉をいただいたときにほっとしたのは言うまでもありません。それから学会が組織として体裁を整えるまでの6年間、会長として積極的に私たちを励まして下さり終始温かいまなざしを向けて支え続けて下さいました。
残念なことに、1994年に本学会が設立されてから17年も経つと、霜山先生のあの独特な人間味あふれる哲学的な語りと存在に直接触れたことがないという会員も多くなりました。そこで、霜山先生が本学会の学会誌創刊に寄せてお書き下さった巻頭言をここに転記することにします。真実を伝えるメッセージは、時間を経てもなお新しく生き生きとしています。

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本誌の創刊に寄せて
霜山徳爾(本学会会長)

本学会の定期機関誌『包括システムによる日本ロールシャッハ学会誌』が創刊することとなった。
 創刊に当たり、学会会長として一文を寄せることになったが、私のロールシャッハ・テストやヘルマン・ロールシャッハに対する思いを素直に語った第二回大会(1996年5月12日)における「大会会長の辞」を以下にまとめ、巻頭言としたい。


大会会長の辞

本学会は出来たばかりの学会ではありますが、実際には、とうにあるべき学会でありました。ようやく機が熟して、大会を定期的に開催できるようになり喜ばしいことであります。しかし、まだこれからの学会であり、なお多くのロールシャッハ研究家のご参加を歓迎し、一層幅広く発展することを大会長として期待しております。申すまでもなく、ヘルマン・ロールシャッハは単なる一つの投映法の発明者ではありません。彼は、何よりも、優秀な才能を持った一人の芸術家であり、幅広い教養をもった一人の知識人でありました。彼は、若い頃、医学を学ぶべきか、あるいは芸術の道(絵画の道)に進むべきか、いろいろ迷ったことが報告されております。さらに、彼は宗教学にも多くの時間を使っております。
 つまり、今日においても、ロールシャッハ・テストをなさる人々に必要なのは、このヘルマン・ロールシャッハのように、単なる技術的な知識をもっているというのではなく、幅広い教養と豊かな成熟した人格をもつということであります。これは今後も、必要にして欠くべからざるテスターの条件であり続けるでありましょう。
 このヘルマン・ロールシャッハがスイス人であったというのは大きな幸せでありました。彼は第一次世界大戦に巻き込まれることなく免れております。また、ロシアの旧レニングラード(現在のセントぺテルスブルグ)に、ネバ川という川がありますが、そこに現在も記念館として係留されております軽巡洋艦アウローラから発射された一発の砲弾が、ツァーのエルミタージュに命中して始まったのがロシア革命であります。それは1917年のことでありますが、彼は妻がロシア人であったにもかかわらず、スイス人として、そこから延々と続きますロシア革命も免れて、無事にスイスに帰国し、自由に仕事ができるわけであります。
 実は、ロシア革命が始まった1917年というのは、私の生まれた頃でありますから、ずいぶん昔の話なのですけれども、それからの20世紀というのは、ご承知のように、要するにイデオロギーの争いでした。つい10年ほど前にやっと崩れたこのイデオロギー戦争にも、彼は全く関係なく、1917年のロシア革命が起きたその時に既にロールシャッハ図形の前段階というものが生み出され、次第にリファインされてきたことはご承知のとおりであります。
 ヘルマン・ロールシャッハは、残念ながら1923年には亡くなってしまいますが、もしロールシャッハが夭折しなかったら、おそらく彼がその後に打ち立てたであろうものは、彼が特に関心を示した精神分析の影響を受けた、現在でいえば、現象学的・人間学的な精神病理学ではないかと私は思っております。そして、おそらく芸術療法に極めて寄与する学者にもなったでありましょう。
 そして、ご承知のように、彼のテストは、誠に不条理なabsurdな扱いの結果、たとえば印刷費の関係で15枚の原画を減らされてしまうとか、あるいは印刷技術が稚拙なために濃淡がついてしまうとか、カードのサイズが小さくさせられてしまうとか、いろいろな不利な取り扱いを受けた結果、それが偶然に幸いして、今日では他のもので代替不可能な現在のカードが生み出されたことについて、幸運だったabsurdity、不条理性というものに対して、私は見えざる指を感じるのであります。
 これで、ご挨拶を終わらせて頂きますが、重ねて本学会の一層の発展と、皆様のお力による寛容とユーモアに満ちた学会の発展を心から祈念して、ご挨拶の言葉とさせて頂きます。

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 霜山先生のこのメッセージは不思議と古くならないのです。そして読み手を勇気づけてくれます。まだまだ、私たちには学ぶことが多いことを気づかせて下さいます。「単なる技術的な知識をもっているというのではなく、幅広い教養と豊かな成熟した人格をお持ちなさいね、いいですか君たち」という具合です。いつものように厳しく温かなメッセージを添えながら、そして最後に「寛容とユーモアに満ちた学会の発展を心から祈念して」下さっています。私たち学会員がお互いにお互いを寛容に尊重し、さらにユーモアという和をもってこの学会を推し進めていってほしいという願いを託しておられます。
 さらに霜山先生をご存知なかった会員のために補足させていただきます。霜山先生は上智大学名誉教授で、フランクルの訳書「夜と霧」や「人間の限界」他ご著書多数で、それらは著作集としてまとめられています。偉大な先生が少なくなりましたが、霜山先生は本当に偉大な先生でした。臨床心理学の先駆的で権威的な存在でありながら、臨床に身を投じるものの分をわきまえるといいますか、実に謙虚で真に臨床を学問する学者の姿をお示しくださいました。現象学的、人間学的な探求の手綱を最後まで緩めず人間の深層を極めようとされていたように思えます。とにかくin vivoに人間をわかろうとする先生が、ロールシャッハ法を大事にしてくださったのは幸いでした。あるがままにクライアントを受け入れるという姿勢と、ロールシャッハ法を通してその人のものの見方をそのまま引き受けて、その人の世界観を知るということにどこか深いつながりがあることを先生はご存じだったのではないかと思います。
 「老人は、上手に忘れられる事が大事だ」と先生がおっしゃったのを思い出します。高齢になると、とかく自分のことを忘れるな、自分をないがしろにするなという気持ちが強くなるけれど、人生のたそがれを迎えた高齢者は、静かに日が沈むように徐々に自然と人々の記憶から忘れられるのが美徳であるというものでした。確かに霜山先生の死は、我が国の多くの臨床家にとってはとても大きなニュースにはなりませんでした。
しかし私たち会員は、こうした初代会長霜山徳爾先生のメッセージを今読み返してみることで、いかに日本の臨床心理学の草分けである先生が今もって私たち学会と会員を深い愛情と教養をもって叱咤激励し、健やかに歩んでいけるよう願いつつ神のもとに召されていったかを知ることができます。一粒の麦が広く豊かな実りをもたらすことを信じて下さっていたことに、深く、深く感謝申し上げます。人間の生と死をいつも身近に見据えながら生きてこられた先生の、真のご冥福をお祈りいたします。

包括システムによる日本ロールシャッハ学会編『ロールシャッハとエクスナー』ロールシャッハ・テストの起源と発展 金剛出版 ISBN4-7724-0868-1 C3011 \2800E
ロールシャッハとエクスナー.jpg
まえがき
 包括システムによる日本ロールシャッハ学会の設立10周年を記念して,学会企画として本書を出版できたことを心から嬉しく思っています。続きはこちら


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JRSC会長あいさつ

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 当学会は,包括システムによるロールシャッハ法を学び,その発展・普及および研修者間の連携・協力をはかっています。例年5月に大会を開催する他,機関誌,ニュースレターを発行し,各地で研修会を実施しています。また,国際ロールシャッハ及び投映法学会(The International Society of the Rorschach and Projective Methods (ISR) )に団体会員として登録し,その活動に参加しています。
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