包括システムによる日本ロールシャッハ学会 第23回北海道大会 印象記

佐藤昭宏(こころとそだちのクリニック むすびめ) 

 6月10日,11日に,北海道大学で行われた第23回JRSC大会に参加しました。当日はあいにくの悪天候でしたが,会場となった学術交流会館は札幌駅から近く,アクセス良好な上,各研究発表,ワークショップがすべて同じ施設内で行われたため,天候はほとんど気になりませんでした。受付では,運営にあたられていた大会事務局のスタッフの方々に丁重な対応をいただきました。初めてのJRSC大会参加だったため,内心私は緊張していたのですが,スタッフの方の暖かい挨拶,言葉がけ,案内に,すごくほっとしたのを覚えています。
 学会では,1日目のワークショップA「解釈の基礎~ロールシャッハを臨床現場につなぐ」と,2日目の事例検討「支援に困るデータの事例をどう繋げるか?」に参加しました。
 1日目のワークショップAはタイトル通り,野田昌道先生からロールシャッハの解釈のご指南をいただきました。実際に野田先生がロールシャッハを実施したときに,何を考え,何を感じ,どう解釈を組み立てるのか,その思考過程が開示されることで,ロールシャッハを「立体的に読む」という言葉が何を意味するかを,身を持って教えていただいた気がしました。
2日目の事例検討は,学術交流会館の中でも最も大きな,講堂で行われました。かなりの席数があるのですが,開始前から多くが埋まり,参加している方々の熱気がひしひしと伝わってくるようでした。事例はとても複雑な経緯の方でした。主なテーマは復職支援だったと思うのですが,なにせその方に関わる対象が,医師,リワーク関係者,復職先の関係者と多岐にわたっています。しかも検査者とクライアント,検査者と各関係者は,検査前にはほとんどつながりがないような状況でした。こんな難しい事例,どう対処するのだろう。私は思わず考え込んでしまいました。しかし報告された馬淵聖二先生は違いました。検査バッテリーの読みは,一言で言えばとてもエレガントでした。ロールシャッハの結果を立体的に読み込むことはもちろん,そのほかに実施した,TEG,知能検査までを一体にし,クライアントという一人の人に組み上げていくプロセスには,驚くほかありませんでした。印象的だったのは検査の読み方だけではありません。検査結果から最終報告を作るにあたり,クライアントの問い,クライアントのニーズから考えるという点にも,強く感銘を受けました。クライアントに最大の利益をもたらすにはどうしたらよいか,その観点を外さなければ,関わる関係者が多岐にわたっても,検査結果をどう用いていくかの道筋が見えてくる。馬淵先生の事例報告からは,そんなヒントがいただけたような気がしています。
北海道に住んでいると,なかなか多くの全国大会は参加できません。自己研鑽機会が乏しくなることに,私は日々危機感を感じていました。そうした中で行われた今回のJRSC大会は,とても大きな学びを与えてくれるものとなりました。特に野田先生,馬淵先生,お二方に共通しておられた,「クライアントの目線からロールシャッハを組み立てる」という姿勢には,目を開かされるような思いでした。貴重な学びの機会を与えて下った両先生はもちろん,北海道での開催を決めてくださったJRSCの諸先生方,そして大会の運営にご尽力いただいた事務局の諸先生方に,心より感謝申し上げます。教えていただいた姿勢,知識は,これからの臨床の場で,しっかりクライアントの方々にお返ししていきたいと思っています。

包括システムによる日本ロールシャッハ学会 第23回北海道大会 印象記

元木良平(東京拘置所)

 JRSC第23回札幌大会は,「ロールシャッハで繋ぐ」というテーマのもと,北海道大学で開催されました。北海道大学は札幌駅からのアクセスが非常に良く,正門を入ってすぐの学術交流会館にすべての会場がコンパクトに集約されており,私のように初めて北海道大学を訪れた者にとっても,参加しやすい運営がなされていました。また,我が国有数の歴史ある大学の,豊かな学問の歴史が感じられ,自然と体が学びのモードに入りました。大会期間中は,残念なことに雨の日が続き,例年になく冷え込んでいたために,新緑溢れる6月の北海道の魅力は体験しきれないかと思っていました。しかし,大会2日目の昼休みには晴れ間がのぞき,大学構内に差し込む陽光の中をポプラの綿毛が舞うような,素敵な風景を見ることができました。
 ワークショップの選択については,前回の福岡大会でCPCS1-B研修をすでに受講しており,投稿論文も過去に書いたことがあったため,野田昌道会長が直々に講師を務められた,ワークショップA「解釈の基礎 ~ロールシャッハを現場へと繋ぐ」を受講することにしました。ワークショップAでは,女子高生のプロトコルを題材にしながら,個々の解釈仮説を立体的に組み上げていく方法を実践的に示していただきました。「モザイク的な解釈」,「一点豪華的な解釈」に陥らないよう,変数間の関係や臨床像との関係を考慮しながら,直観ではなく論理的想像力を活用して解釈をまとめ上げていく手法を目の当たりにし,データの断片が徐々に“人間の形”に組み上がっていくように感じられました。私はそのクライエントに会ったわけではないのに,ロールシャッハ解釈を通じて,臨床体験が一つ増えた感覚がありました。
私は日頃から,私が実践しているロールシャッハ解釈は,躍動感のない,どこかで聞いたことのある言葉を繋げたような解釈になってしまいがちだと感じてきました。ロールシャッハ・テストを学び始めたころは,すでに包括システムが存在し,ステップ解釈が非常に明解で飛び付きたくなるものであるだけに,背景を踏まえずに安易に引用した結果,野田先生がおっしゃっていた「モザイク的解釈でもそれらしく見えてしまうという落とし穴」にはまりがちであったように思います。包括システムが様々な流派のロールシャッハ解釈の何を包括して出来上がったのかということや,他の心理学等との関連付けにおいて試行錯誤してきた歴史を体験的にご存知の先輩方と私とでは,解釈の奥行きや柔軟性が異なるということを,こうした研修のたびに実感します。包括システムをより使いこなすためには,適切な施行やコーディングを前提としつつ,包括システムの内側と外側,成り立ちを知り,様々な心理学,精神医学,神経生理学等を学際的に結び付ける力を身に付けることが必要だと思います。このようなことを考えながらワークショップを受講しているとき,第20回東京大会でフィン先生が非常に有機的に,さまざまな次元を行き来しながらロールシャッハ・テストを使いこなしていたこととの符合を感じました。
 学会等でのワークショップでの体験は,私にとって,日々の仕事の中でのロールシャッハ実践で煮詰まりがちな,また,関連書籍を読むだけではしっくりこない部分が,クライエント像とつながり,他のケースにも応用可能なものになっていくための大切なきっかけになっています。次回大会でのワークショップでもたくさんの学びが得られるよう,これから1年間,日々の仕事に向き合い,“わからないこと”を抱えて,福島まで持っていこうと思っています。

包括システムによる日本ロールシャッハ学会 第23回北海道大会 印象記

橋本泰夫(大阪大谷大学学生相談室)

 今年の学会は,札幌駅から徒歩数分圏内という至便な立地条件にありながら,キャンパス内に白樺の並木や小川が流れる,豊かな自然に恵まれた北海道大学で開催されました。
 初日の最初は,高瀬由嗣先生の「臨床実践を研究に繋ぐ~研究デザインから投稿まで」を受講しました。私は実務でロールシャッハを使用し,研修会や学会に参加して刺激を受けるうちに,研究にも取り組んでみたいとの欲が湧いてくるようになりました。しかし日々の業務に追われて手つかずになっていたところに,今回のワークショップを知り,迷わず申し込みました。高瀬先生は,院生時代の研究を深めていかれたご経験を通して,研究の着想は身近なところにあることを示され,その着想をブラッシュアップする方法をご紹介くださいました。研究においてはその方法もさることながら,倫理も非常に重要で,そのことについても時間をかけて解説してくださり,会場からの熱心な質問にも丁寧にお答えくださいました。
 次は,齊藤真善先生の特別講演「自閉症スペクトラム障害の内的世界について」を聴かせていただきました。齊藤先生はASD当事者を外から観察するのではなく,当事者の語りを通じて,どのように体験しているのかという観点でお話をしてくださいました。外からの観察だけでは,表層的な理解に止まり,落とし穴に嵌りやすいと思いますが,当事者の語りを通じた理解は,異質なものとして当事者を突き放すのではなく,思考や感情を使った理解に繋がるように思いました。
二日目の朝一番は,岸竜馬先生の事例研究発表を聞かせていただきました。ご発表の「強迫症状も呈するアスペルガー障害のひきこもり事例」は,私が働く学生相談領域とも無縁ではない内容であり,ロールシャッハの理解をどのように活かしておられるのか学びたいとの思いで会場に向かいました。長期にわたる面接経過をコンパクトにまとめられたご発表に続き,指定討論の佐藤豊先生が構造一覧表に基づく解釈に加えて,海外のロールシャッハ研究者の尺度をご紹介下さったことで,事例理解が分厚くなったように思いました。ただ,佐藤先生の持ち時間が限られていたこともあり,急ぎ足でのコメントにならざるを得なかったのは非常に残念でした。経験豊富な先生方のコメントは,私のような初学者にとっては貴重な学びの機会ですので,紙面などで読めたらと思いました。
午後からは,「支援に困るデータの事例をどう繋げるか?~解釈からフィードバック及び報告書まで」の事例検討のセッションに参加しました。取り上げられた事例は,休職中の成人に関するものでした。産業領域でも私は仕事をしており,検査のデータをどのように支援に活かすことができるのか,従業員と職場側の利害が異なる場合にアセスメントの専門家としてどのようなスタンスで役割を果たすのか等,産業領域ならではの課題とロールシャッハがどのように繋がるのかということを期待していました。検査結果の理解について,その結果をフィードバックするにはどうすればよいのかについては,馬淵聖二先生が詳細かつ端的な言葉でご説明くださり,それはまさに痒いところに手が届く内容でした。
どのセッションでのご発言だったか失念してしまったのですが,中村紀子先生が,「ロールシャッハを施行することがアセスメントではない,検査結果からセラピストとしてこのように関わる,そこまで行ってこそアセスメントである」,大要そのようなコメントをされたことが印象に残りました。検査結果からこのような人である,その段階で止めてしまえばジャッジメントに終わってしまい,それは支援とは似て非なるものなのかもしれない。改めて何のためにアセスメントを行うのかを考える機会になりました。
大会長の斎藤美香先生をはじめスタッフの皆さま,充実したプログラムをご準備くださりありがとうございました。

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JRSC会長あいさつ

包括システムによる日本ロールシャッハ学会シンポジウム画像.JPG 本学会は、1993年にアジアでははじめて 国際ロールシャッハ及び投映法学会に団体登録された、日本で最初のロールシャッハ学会として設立されました。設立当時は30人に満たない組織でしたが、学会員数は600名を超える学会に成長しました。

このサイトは,包括システムによる日本ロールシャッハ学会の公式サイトです。
 当学会は,包括システムによるロールシャッハ法を学び,その発展・普及および研修者間の連携・協力をはかっています。例年5月に大会を開催する他,機関誌,ニュースレターを発行し,各地で研修会を実施しています。また,国際ロールシャッハ及び投映法学会(The International Society of the Rorschach and Projective Methods (ISR) )に団体会員として登録し,その活動に参加しています。
 当学会は,平成20年4月7日付けで日本学術会議の協力学術研究団体に指定されました。
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