第24回福島大会 印象記(ワークショップB)
M.K
2018年6月23日、24日の2日間にわたり、JRSC第24回福島大会が開催された。私はここ数年、JRSC国内大会に毎年参加しているが、ワークショップに参加するために大会に参加していると言っても過言ではない。JRSCのワークショップは、どっぷりとロールシャッハテストと向き合う濃密な時間である。今年のワークショップはAとBの2種類があり、どちらもアセスメントから介入方法を検討する内容となっていた。「虐待による傷付きからの回復」とのテーマが掲げられており、自身の臨床でも傷付きからの回復がテーマとなることが多く、ワークショップBに参加した。「ん?これは・・・」、会場に着いてまず感じたことは、これは全員参加型なのだ、ということだった。「ワークショップ」と銘打っていても、参加者は聴衆の形をとっているものが多い。だが、今回は6人程度の小グループに分かれる形での座席となっていた。積極的に全員が発言することを求められるようなワークショップなのだなと密かに覚悟を決めつつ、ワークショップの開始となった。
ワークショップは、まず施設の説明から始まり、事例概要、そしてロールシャッハテストのプロトコルを読み上げながらのコードの確認へと進んでいった。事前にコードは見ていたが、詳しくケースの生活歴を聞いた後でプロトコルを聞いていくと、反応内容の一つ一つが意味を持って聞こえてくる。JRSCの研修では、反応のコードを確認する時間を長めに取っていることが多いが、コード確認だけではなくケースの反応を味わうための大事な時間にもなっているのではないかと感じられる。初めてプロトコルを見たときには感じられなかった、どのような人物なのかということが、コード確認の時間にイメージとして湧いてくることが多い。そのような中で、「なぜこのコードなのか?」という質問や、「別のコードの方がいいのではないか?」という提案が次々に出されていた。簡単な質問はしてはいけないのではないかと躊躇したくなる雰囲気は全くなく、あちこちから積極的に発言があがっていた。質問に対しては、講師からだけではなく、参加者から意見が出されることもたびたびあった。人物像のイメージを形作りながらも、微妙なコーディングの違いについての説明を「ふむふむ、なるほど。」と聞きつつ、コーディング確認の作業は進んでいった。一通りのコード確認が終わった後、早期記憶回想法、描画テスト、WISCなどの結果も提示され、グループでの話し合いとなった。テーマは、人物像の理解、どのようなフィードバック内容にするかということだった。構造一覧表を各自が眺めつつ、「これって数値が・・・」という遠慮がちな発言から始まり、徐々に打ち解けて、話し合いは和気あいあいとした雰囲気の中で進んでいった。初めは話し合いの時間設定が少し長すぎるのではないかと感じたが、他の参加者の指摘から多くの気づきがあり、じっくりとケースを味わうことができ、あっという間に時間は過ぎていった。最後に、講師から実際にどのようにフィードバックを行ったのか、そしてどのような介入を行い、施設入所後にどのような経過をたどったのかということが説明されて終了となった。
通常、これほど時間をかけて事例検討を行うことは多くはない。実際には顔も知らない人物だが、約6時間という長い時間をかけたためか、自分自身が関わったケースのように感じられて、帰路につく頃には自分自身が施設から送り出したかのような気分になった。継続的にスキルをブラッシュアップしていくためには、日常の業務での経験だけでは不十分であり、他の参加者の力も吸収しながら、多くの経験知を積み上げていくことが必要である。被虐待事例のアセスメントを通して疑似的に新たな経験知を得ることができ、また来年度も参加しようと考えつつ満足した気分で大会1日目を終えたのだった。
包括システムによる日本ロールシャッハ学会 第24回福島大会 印象記
佐々木貴弘(福島少年鑑別所)
福島大学での開催ということで,「せっかく近くでやるから大会の参加申込みだけして,仕事が大変だったら…。」などと軽い気持ちでいたところ,以前の勤務先の上司から,「研究発表のコメンテーターをやってくれる?」との打診が。上司の言うことには決して逆らわず,波風を立てないように社会人生活を送ろうと固く心に決めていた私は,そんな打診を断れるわけもなく,大役を引き受けることになりました。これは大変なことになったと右往左往していた所,大学院時代の同期でもある友人から,「大会の印象記を書いてくれない?」との追い討ちが。泣き言をいう暇も与えられないまま,二つの大きな役割を担うことになり,結果として,思い出の大会となりました(もちろん良い意味で)。
「やるからにはご迷惑を掛けないように一生懸命やろう。」そんな意欲を持つ一方で,「コメンテーターというのは,偉い人が色々とためになるコメントしたり,発表者が困っていたら助け舟を出したりするものだ。」と,決め付けていた無知な私は,発表される先生からいただいた発表原稿や抄録を何度も読み返し,分からないことは調べつつ,「どんなコメントをすれば良い発表になるだろうか」とか,「どんな質問をすれば互いに収穫が得られるか」など,そんな身の程知らずなことを考えつつ,「発表する先生方は,この何倍も勉強し,準備をしているのだろう。」と,尊敬に近い気持ちを抱きながら当日を迎えました。
大会初日,ワークショップAに参加しました。自分自身の業務の中で,MMPIやWAIS -Ⅲを使うことが多く,それらをどう活かしていくかということに強い興味があり,初日からわくわくしながら参加しました。テスト結果を踏まえ,対象者の個別性にどのようにアプローチしていくかという問題意識を持っていた私は,最初から最後まで余すところなく刺激的で,もっと聞いていたい,勉強したいという気持ちが強く沸き起こってくるのを感じただけでなく,継起分析や脳神経系,自傷行為に関する知識など,職場に持ち帰れるお土産の量の多さに感激し,大満足のワークショップとなりました。
大会二日目。発表者の次に緊張しながら研究発表Dの会場へ。小倉先生からは,治療的アセスメントに関するお手本のような事例発表がありました。MMPIやロールシャッハテストの結果を用いながら,対象者が自分自身についての理解を深めていき,自身のつらい状態を徐々に受け入れていく過程を学ばせていただきました。平山先生からは,治療的アセスメントの有効性を踏まえ,日本においては現場の臨床心理士がどのように心理検査を用い,どのようにフィードバックしているかに関する調査についての発表がありました。まとめられた結果からは,自分自身が日常の臨床活動で意識しなければならないことを改めて確認させられるとともに,その後の支援に役立てられるような様々な工夫があることを理解することができました。いずれの発表も,コメントするまでもなく刺激的で,またも大きなお土産をもらえたように感じました。
午後にあったパトリック・フォンタン先生の基調講演では,科学的であることや実証的なエビデンスの重要さを踏まえながらも,テスト結果をどのように解釈するのか,テスト結果を使って何をするのかということの重要性を理解することができました。その後のシンポジウムでは,震災や原発事故から7年が経過し,今何が起きているのかについて討論されました。シンポジストの発表から,トラウマがあるのではないかということを念頭に置きながら支援することの重要性,遅発性PTSD,難民の心理など,被災者への心理的な衝撃の大きさと心理職としての責任の重さを改めて痛感させられました。
今回の大会は私にとって,包括システムの圧倒的なパワーだけでなく,それをどう活用し,どう支援していくかという,また,包括システムが今後どうなっていくかという,二つの意味でテストの「その先」について考えさせられる,とても刺激的な体験となりました。日常業務に燃え尽き掛けて,潰れている自分自身を立て直す,素敵な二日間を過ごすことができました。来年もなんだかんだ言いながら,きっと参加して,きっと刺激を受けてしまうんだろうなぁ…。
包括システムによる日本ロールシャッハ学会 第24回福島大会 印象記(ワークショップA)
上智大学大学院 平山佳奈子
JRSC第24回大会は、平成30年6月23日、24日に福島で行われました。とにかく、緑の力強さに驚きました。電車で会場に向かう途中も、自然と目に入る緑、赤みがかった茶色、青のコントラストに、山が生活のごく近くにある土地柄であることが印象付けられました。会場である福島大学の真っ白な校舎は大きく、文字通り眩しかったことが思い出されます。
初日のワークショップは、防衛医大の佐藤豊先生の「アセスメントを活かす~治療計画から治療介入へ(ワークショップA)」に参加しました。そこでは、自傷行為を繰り返す10代女性のケースについて粒さに読み込んでいきました。まずは多くの文献を交えながら、ロールシャッハテストが治療介入にどのように繋がっていくのか講義があり、治療的な変化を阻むロールシャッハテスト上の特徴や、治療計画に心理アセスメントが果たす役割などについて、Exner, Weiner, Peebles等、ロールシャッハの古今の文献に留まらず、精神医学、精神分析、愛着理論、脳科学と幅広くご紹介がありました。
ロールシャッハテストの構造一覧表からは、特別リッチな内容は見て取れるようには思えませんでした。しかし、丁寧に見ていくと次第に多くのことが見えてきます。この人の強み弱みだけではない、今後育っていくと良い部分、育っていく可能性のある部分。それを引き出す介入。RODやRFSなどの道具も自由自在に用い、「つぶれ型」や自傷の精神医学的な知見も交えながら、立体的にクライエント像が描かれる過程を追体験し、あの手この手でロールシャッハテストを味わい尽くすそのやり方にとてもわくわくしました。この過程を追体験できるように、その体験が参加者の中に織り上がっていくように、非常に入念に講義が計画されていたのだと思います。
この講義に興奮したのは私だけではなかったようで、続く小グループでのディスカッションでは、どのグループも活発な議論がなされ、自分のグループの発言を聞き取るために工夫がいるほどでした。その後の面接経過も併せて紹介されましたが、波乱がありながらも、本人や治療構造に対する働きかけを通して彼女が変化していく過程が描かれており、印象深かったです。
このワークショップの終わりは先生の「“この人はこういう人でした”というところにとどまらず、一歩進んで治療勧告を述べられる心理士になりたいですね」という言葉で締められました。その言葉は、これからの心理士の専門性の在り方を考えてもとても身の引き締まる、そして励まされるものだと感じます。そして自分自身がそのような心理士となるためには、ロールシャッハテストはもちろん、臨床感覚を豊かにするための多くの研鑽が必要だと感じました。
終始一貫して、データや文献に裏打ちされた骨組みとそれを肉づける臨床感覚のバランス感に、ロールシャッハテストを用いる臨床家の一つの到達点を見ましたし、感銘を受けました。その日の懇親会で「あの3倍は文献を読んだんだよ」と先生から伺い一層鼓舞され、早速文献を取り寄せて読み始めています。ワークショップでの体験が、学会終了後の今もインパクトを残しており、本当に参加して良かったと私は感じています。
末筆ではありますが、岸竜馬先生をはじめとした実行委員会の先生方やスタッフの皆さまのきめ細かなご準備と充実したご企画に感謝いたします。